「俺と孝蔵」 (2/3)
「俺と孝蔵」 (2/3)
朝から二件目の調査をしていると、孝蔵が来て俺に纏わりついてきた。調査票に記入するだけなのであまり問題が無く親方も微笑んでいるようだ。
一緒に仕事をしている様で昼にはおにぎりを持ってきて一緒に食べ、その後じゃれ合って遊ぶ日が続いた。夕方奥さんが迎えに来て「すみません 迷惑を掛けて」すると親方が「いいよ 賑やかでいいよ」って笑っていた。
次の日孝蔵は来なかった、如何したんだろう調子でも悪いのかなと思い昼休みに孝蔵の家へ行ったが留守の様だった、出かけている様だ。
二件目の家に戻るとそこの奥さんと親方が話をしている
話によると、孝蔵には歳の離れた兄が居てそれはそれは懐いていたそうだ、その兄は数年前父親と共に仕事で山に入り帰らぬ人となったそうで孝蔵が喚き走る回る事が数日続いたそうだ。
気になったので聞いてみると
俺 「孝蔵は、今日はどこかへ出かけたんですか?」
二件目奥 「今日は病院ですよ」
俺 「どこか悪くなったのですかね?
二件目奥 「いえいえ、定期検診の様ですよ」
俺 「えーと どこが悪いんですか?」
二件目奥 「はぁ、それは・・・」
言葉を濁すのでそれ以上は聞けなかった。
その日の夕方に奥さんが孝蔵とやって来て
俺 「おう 孝蔵元気か」
考 「うん!」
俺 「おう そうか」
奥 「すみません お願いが有るのですが」
俺 「はぁ 何ですか?」
奥 「すみません 迷惑でなかったら一晩で良いので泊まって頂けませんか?」
俺 「えっ 泊まる?」突然の意外な事で戸惑っていると
奥 「すみません 孝蔵がそう言うんです」
俺 「でも 兄さんの話を聞いたのですが、これ以上仲良くなるとまた同じ悲しみを与えてしまうのでは可哀想ですよ・・・」孝蔵に聞こえない様少し小さい声で言った
この時気が付いた、この奥さんの会話は「すみません」から始まるんだと思い少し笑ってしまった、それを見て親方が俺が了承したと思い
親方 「おう そうさせて貰え」 また意外な言葉だ
俺 「えっ 帰りは・・・」
親方 「自分で運転して帰るから気にすんな」
俺 「はぁでも・・・ではそうします お邪魔せて頂きます」
奥 「すみません 有り難うございます」
孝蔵が奥さんの影でもじもじしているのを見ると俺もなんだか嬉しくなってきた。
その日の夕食は近所の方も数人来られ「宴」のようでした、俺は孝蔵と並び上座に鎮座し時代劇に出てくる「親方様」になった気分でした。
宴も終わりに近づくと孝蔵が俺の膝を枕にし居眠りしだしたので、奥さんが寝かしてきますと連れて行った。
村の人達からはこの村の歴史を教えて頂いた、古文書も有り解かっているだけでも江戸時代よりまだ以前だと言う。
宴も終わり俺は孝蔵と枕を並べて寝る事となり、起こさない様にそっと布団に入り孝蔵の寝顔を見てみると仏さまが微笑んでいるように見えた。
しばらくすると孝蔵が俺に気が付いたのか、俺の布団に入って来た「おう 一緒だぞ~」って言うと嬉しそうに頭を振り、俺の足に両足を絡ませ俺の腕を両の腕で抱きかかえて眠った。
あくる朝、目を覚ますと孝蔵はまだ寝ていた、起こしても良いものか迷ったが起こさないと悲しみそうなのでほっぺをつんつんと突いてみたら目を覚ました様だ。
その時の孝蔵の顔は、透明感が有り荘厳で後光が差している様なそれ以上の表情で笑みがこぼれていた。
考 「あんちゃん おはよう」
俺 「はっ あっ おはよう」 はっとして我に返った
孝蔵の手をつなぎ前後に振りながら台所へ向かうと、親方がもう来ていて朝食の用意をしている奥さんと話をしていた。
奥さんの声で「あと半年・・・もてば・・・」と言う言葉が聞こえたような気がしたが孝蔵と二人で目一杯の笑顔で「おはようございます!」
その後も調査を続け孝蔵は毎日の様に俺の周りで遊んでいる、それは一人で遊んでいるのと変わらないが孝蔵にはそれが嬉しかったのだろう。
この調査もあと数日というある日の昼休み親方から聞かされた・・・
孝蔵は生まれつきの白血病のような血の病気であと半年位の命だと・・・
それを聞いた後の俺はどうしたのか記憶が無く思い出せない。
今日で調査も終わりだ、いつもより早く終わったので、孝蔵の家に挨拶に行くと縁側で孝蔵が泣いている・・・傍で奥さんが困ったように孝蔵に話しかけている
俺 「どうしたんですか?」
奥 「すみません 仕事が終わったので明日からあんちゃんに会えなくなる事を解らせようと言っているのですが・・・」
俺 「・・・・・」
奥 「すみません 中々解ってもらえなくて・・・」
俺 「孝蔵と二人にしてもらえますか?」
孝蔵を膝の上に乗せ、落ち着かせながらこつこつと解りやすくかみ砕いて約一時間ぐらいだったか話をした
孝蔵はいつも返事は頭を上下に強く振るのだがその時は小さく頷いた・・・解ってくれたのだ・・・俺は堪えていた涙が目から鼻の横を伝い口に入った。
それを見た孝蔵は小さな手の人差し指で俺の涙の後をなぞった、その顔は寂しそうだった・・・
帰り際奥さんと孝蔵が村の入り口まで見送りに来てくれた、車に乗りバックミラーを見ると周りは薄暗くなりかけているのに孝蔵の顔だけがはっきり見えた・・・
つづく