「俺と孝蔵」 (3/3)
「俺と孝蔵」 (3/3)
それから以前の様に兄弟子たちと現場仕事に戻った、数日後
親方 「おい 明日休みをやる」
俺 「えっ なんで?明日雨降らないですよ」
親方 「お前だけや」
俺 「俺だけって 首ですかw」
親方 「明日行ってやれ」
俺 「えっ 行くってどこへですか?」
親方 「孝蔵に会いに行ってやれって言ってんだよ!」
俺 「あっ!」
親方 「先様には電話をしといたからな」
親方は気を使って段取りした様だ。
俺 「有り難うございます! 車は借りれますか?」
親方 「空いているのを乗っていけばええ」
村の近くまで行くと入口に孝蔵が座っているのが見えた、迎えに来ていた。
近づくと危ないと思い手前に車を留め、降りると孝蔵が走りかけた「走るな!」と言い俺が走って行った。
「いいか 走ったらだめだぞ」孝蔵は頭を振って「あんちゃん!」ととびっきりの笑顔で言った。
孝蔵の家へ行き一日中一緒に過ごした、夕方帰り際に孝蔵は寂しそうに村の入り口まで送ってくれたがなにかしら孝蔵が痩せた様だ。
その後、雨で休みの日、親方の計らいで休みを貰える日には孝蔵に会いに行った。
半年ほど経ったある日、現場に親方が慌てた様子で来て「おい!病院へ行ってやれ!」
俺は覚悟をしていたので「来たか・・・」と思いすぐ病院に駆け付けた。
ベッドに横になっている孝蔵を見ると穏やかな顔で寝ている、奥さんによると今朝つまずいた拍子に倒れ起き上がれなかったそうだ。
俺はベッドの横で孝蔵の小さな手を握り顔を見ていた、仏さんの様だ・・・涙がこぼれそうになったので天井を見ていると
孝 「あんちゃん・・・」か細い声
俺 「おう 大丈夫か?」
頭を振ろうとするのでそっと抑えた、その後は言葉が出なかった・・・今晩乗り越えれば取りあえず大丈夫の様なので、俺は朝まで孝蔵の傍で付き添った。
朝になると孝蔵が微笑んでいた、その笑顔で俺は体から力が抜ける様だった。
その日は帰らない訳にはいかないので、又来る事を奥さんに伝え会社に戻った。
その後毎日とはいかないが、仕事が終わってからお見舞いに通う日々が続いた。
三か月ほど経ったある日、仕事がきつくて見舞いに行かなかったその日夢を見た
孝蔵が俺の足に両足を絡ませ俺の腕を両の腕で抱きかかえて静かに微笑むように寝ている・・・
はっとして俺は深夜にもかかわらず病院へ車を飛ばした
病室に入ると奥さんが俺を見て俯きながら「すみません」と・・・
孝蔵の横に行くと、初めて一緒に寝たあの日と同じ透明感が有り荘厳で後光が差している様なそれ以上の表情をしている
その時 ・・・「あんちゃん」・・・聞こえたように思えた、いや聞こえた
俺は涙を堪えた「今泣いてはいけないんだ泣いては」必至だった
しばらくすると先生が来られて孝蔵の手を取り顔を横に振った・・・
俺は堪えきれず病院の廊下を走り抜け車に戻り号泣してしまった・・・
その後一か月程が過ぎ俺は会社を替わった、周囲の気遣いが苦になっていた。
そして新しい会社で知り合った女性と結婚し、子供が生まれる事となった、俺は男の子が欲しくて心の中で「男の子」を何度も呟いていた
そのお陰か無事男の子が生まれ名前は「勇蔵」にした、古臭いと反対もあったが無理に決めた、それは孝蔵の兄の名前だ
そして二年後弟が生まれた、もちろん名前は「孝蔵」だ、周囲はあの出来事を知らないのでかなり反対されたが俺は聞く耳を持たなかった。
二人はそれはそれは仲が良く、すくすくと育ってくれた、今は孝蔵も四十近いおっさんだ
仕事は時給でまともな会社には勤めていないが、音楽をやっていてライブだのリハーサルだのと常に言っている。
好きなように自由に生きて行って欲しい「あの孝蔵」の分までも・・・
貴方は前世を信じますか?
俺と「あの孝蔵」とはどんな関係だったのか、兄弟だったのか親子だったのか解らないが信頼し合っていたのは間違いはない。
前世で信頼し合っていた者同士は、この世でお互いを引き合うのだ・・・お互いを・・・
そして来世でも・・・ またその次の世でも・・・