「声を掛けていたら・・・」 「後」
「声を掛けていたら」 「後」
時は経ち、社会へ出て人生経験を積み重ね、気が付けば現役を引退する歳になっていた・・・
引退後のある日、知人の個展のお誘いを受け数人で行く事となったんだが、その場所が子供の頃住んでいた街だった。
個展の作品を見て食事もそこでいただき解散となり駅に行ったが、懐かしさのあまり街を見てみたくなった。昔の記憶を頼りにうろうろしたがすっかり様変わりしていた。
・・・初めて入った喫茶店、初めて飲んだコーヒー・・・
そうあの喫茶店のある商店街を見つけ、店の前まで行くとまだ営業していた、年月を考えるともう経営者も変わっているだろうと思い店には入らなかった。
子供の頃の思い出を胸に駅へ向かった、地下鉄だったので地下へ降りようとすると
「すみません」
振り返ると同年代の上品な女性が微笑んでいる・・・見覚えがない誰だろう
彼女 「○○(自分)さんですよね?」
自 「あっ はい、そうですけど・・・」 誰?
彼女 「お久しぶりです、お元気そうですね・・・」 誰?
自 「はあ・・・失礼ですけど何方様ですか?」 誰?
彼女 「そうですよね、解らないですよね・・・」 誰?
自 「すみません・・・」 誰?
彼女 「青山です・・・」
それでも解らなかったがあの喫茶店が頭に浮かび
自 「え~青山さん・・・あの青山さん!」
昔と変わらず綺麗だ・・・
青 「はい 懐かしいですね」
自 「はい どうして?」 トンチンカンな返事
青 「お時間有ります?」
自 「あっ はい」
青 「コーヒーでも・・・」
すぐ傍にアンティックな感じの喫茶店が有ったのでそこに入り、時間を忘れて思い出話をしていると外はすっかり暗くなっていた
そろそろ帰らなければと思い、昔は交換日記だったものが携帯のアドレスの交換をして足取りも軽く帰路についた。
家に帰るとメールが来ていた「今日は有り難うございました、懐かしくて涙がでそうになりました。また会っていただけますか?」
思わず「ぜひ!!!」って返事をしていた
それからメールのやり取りをし数回会った、高校の入学前と同じように映画に行ったり繁華街をウロウロしたり昔に戻って楽しい時間を過ごしていた・・・
しかし、毎日の様にメールが来ていたものが「何か詰まっていたものが取れた感じで・・・」の内容を最後にパタっと来なくなった
どうしたんだろうと此方からメールを入れるも返事が無い・・・病気でもしたんだろうか?
数回メールを入れてもやはり返事が無いので心配になったが、彼女の住まいも聞いていない・・・
どうしよう・・・数日が過ぎ如何したらよいのか解らなかった、そうだ!あの喫茶店に行けば何か解るかもしれないと・・・
あくる朝、朝食も取らず出かけた、店の前まで行き入る前に大きく深呼吸して入ると、今風の白を基調とした明るい感じで、カウンターにママさんらしき女性がいてホールにウエイトレスさんが一人いた
ママさんを見るとどこかで見たような人でウエイトレスさんもママさんに似ている、親子かなぁ・・・
コーヒーを飲みながらママさんの手が空くのを待って
自 「すみません」
マ 「はい」
自 「実は人を探していて・・・」
昔ここで経営していた等を具体的に話をして、何か知らないかと聞いてみた
マ 「それはひょっとして私の母かもしれないですよ」 意外な答え
自 「えっ と言うと青山さんの娘さんですか?」
マ 「はい あの子が孫にあたります」
振り返ると明るい表情で接客している
自 「となると三代目のママさんになりますねw」
マ 「そうですね、もう私が最後ですけどw 母とどういったお知合いですか?」
自 「中学生の同級生で・・・」
また少し中学時代の話を具体的に話すと
マ 「○○さんですか?」
自 「えっ どうして自分の名前を知っているのですか?」
マ 「母からお名前を聞いていたので・・・」
自 「なんで自分の名前をママさんに言ったのですか?」
マ 「フフッ 色々思い出話を聞かされていましたから」
自 「そうなんだ・・・今日はどちらに居られるのですか?」
キョトンとした顔で
マ 「えーと ご存じないのですね?」
自 「何をですか?」
するとママがお孫さんに「ちょっとお願いね」と声を掛け自分に「此方へどうぞ」と言って裏口へ促された
裏へ出ると階段が有り、上がると住まいになっていた。
マ 「どうぞ・・・」
自 「お邪魔します」
奥の部屋に案内された、そこは畳の部屋で床の間があり仏壇が有りその中に三つの位牌があった、一つの位牌を手に取り
マ 「これが母です・・・」
自 「えっ!」
その後ママさんが色々話を聞かせてくれた
結婚して子供が出来て、数年で離婚
店をしながらママさんを育てた
五十過ぎで病気になり闘病生活をしていたが亡くなってしまった
闘病生活の時に○○さんの話を聞かされていた
最後にママさんの言ったことが・・・
「色々な話の中で、悔しがっていたのはバスで会った時に声を掛けて貰えなかった事だと・・・」
あの時声を掛けていたら・・・
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