tomshannon’s diary

69歳の爺です、ストレス解消に素直に記したいと・・・

滝地蔵

f:id:tomshannon:20190818193300j:plain

昔々 あるところに石工の与助とその孫で、年頃のお花が住んでいました

二人が住む村から少し山へ入ると、水量の多い段差30mほどの美しい滝が有り、滝の下には滝壺と池から川へ、川から海へと流れが続いていました

 

その滝にはカーテンのような落水の後ろに洞窟の様な空間が有り、そこから落水越しに見える景色は心が洗われる様な美しさでした

その空間に小さな地蔵が有り「滝地蔵」と呼ばれていた

 

この地蔵は地蔵の頭を滝壺に投げ入れ願い事をすると願いが叶うと言われていたが、その姿を誰かに見られると願いは聞き届けてくれないと言われており、人が来ない夜に願掛けに来るようでした。

 

与助は何の報酬も無いが、代々受け継がれて来た事でもあり、願い事が叶えば良いとその都度 地蔵の頭を作っていた

           f:id:tomshannon:20190818193707j:plain
 

お花 「爺ちゃん 滝へ行ってくる」

与助 「ああ また夢を見たのか?」

お花 「うん よく解らないけど、隣村のお婆さんの様だったよ」

与助 「そうか 気を付けてな」

 

お花が滝に着くと、いつも通り激しく水が滝壺に音を立てて落ちている

お花は横へ回り 人ひとり通れる位の通路から滝の奥へ入った

そこには頭の無い地蔵が座っている

お花は周囲を掃除し、来る途中に摘んできた野花を供えて家に戻った

 

お花 「爺ちゃん 無かったよ」

与助 「そうか 願いが叶うと良いな」

与助はまた地蔵の頭を作り据え変えた

 

しばらくしてお花がまた滝へ行くという

与助 「どんな人だ?」

お花 「うん よく見えなかった、知らない人の様だったよ」

与助 「そうか 噂を聞いてきたんだな・・・」

 

お花が滝へ行くと、お地蔵さんの頭が転がっていた

それを見たお花は滝壺や池や周辺を見回したが、何の変化も無かった

お花は頭をお地蔵さんに乗せ、手を合わせお祈りをした

 

お花 「爺ちゃん 頭が転がっていたよ・・・」

与助 「えっ・・・ 足を滑らしたかなぁ・・・」

 

夜になると真っ暗で狭い上に常に濡れており、苔も生えている通路や地蔵の周辺、足を滑らし滝壺へ落ちた人も結構いると昔から伝えられていた

そんな時は、地蔵の頭が地蔵の足元に必ず転がっていた

そして死体が池や川下に浮いていたり 海へ流されたのか発見されない事もしばしばあったそうだ、それは代々お花や与助の様な地蔵の守をしている立場の者にしか解らない事だった

 

それから数か月経ったころ、お花が最近夢を見ないのでお地蔵さんの掃除にやって来た

薄暗い滝の奥へ入ると人影が有り、よく見ると宇吉さんだった

 

宇吉 「よう お花」

お花 「あっ 宇吉さん」

     お花は宇吉に恋心を抱いていた

宇吉 「なぁ ほんとにこの地蔵 願いを聞いてくれるのか?」

お花 「うん 聞いてくれると思う」

宇吉 「そうか 頼んでみようかなぁ・・・」

     宇吉は隣村の「ひさ」がお気に入りで嫁にしたいと考えていた

お花 「何を頼むんだ?」

宇吉 「あぁ そろそろ嫁っこが欲しいと思ってな」

     お花はびっくりし顔を赤くし逃げ帰った

 

その夜 お花は夢を見た

 お花 「爺ちゃん 滝へ行ってくる」

与助 「ああ また夢を見たのか?」

お花 「うん 宇吉さんの様だった」

与助 「そうか 宇吉の野郎か」

  お花は小走りで滝へやって来たが・・・地蔵の前には頭が転がっていた

          「宇吉さん! 頭が頭がぁぁぁぁぁ」

 宇吉が足を滑らせたと思い、地蔵の頭を抱きしめながら、周囲を駆け回り宇吉を探したが見つからなかった

「宇吉さん 宇吉さん・・・」と呟きながら滝壺を見ると青白い丸い光が水中でもがいている様に光っていた

          「宇吉さん・・・」

 お花はしばらく滝壺を見ていたが、振り返り地蔵の頭を力強く抱きしめながら

     「宇吉さんの願いが叶いますように・・・」

と言い滝壺に身を投げてしまった・・・

 

その日から地蔵に新しい頭が据えられる事は無かった

 

それから木々の葉が色づき、小雪が舞い、桜の花びらが舞い、太陽の光が滝の落水のしぶきと戯れ一年が経った

そんなある日、村では宇吉とひさの祝言が行われていた・・・