tomshannon’s diary

69歳の爺です、ストレス解消に素直に記したいと・・・

「俺と孝蔵」  (1/3)

   「俺と孝蔵」    (1/3)

 

もう四十数年も前の話だが、俺は住み込みでそこそこ大きな造園会社に修行に入った。

そこは親方に息子さん三人が居てそれぞれ班を作り仕事をしていた。

俺は親方の元で兄弟子二人と仕事をする事になった。

庭を造ったり庭の手入れをしたりの毎日で、決まった休みと言えば、正月三ヶ日とお盆の三日そして雨の日だけだった。

 

そんな中変わった仕事が入った、車で三十分位の谷間にダムが出来るという。

ダムが出来ると言う事はそこにある村はダム湖の底に沈んでしまう、となると立ち退きや色々な補償問題が出てくる

そこで建物や庭等の価値を調査する仕事だ、建物は建設会社が行い庭や周辺の造作物に関しては親方が指名されたようだ。

 今掛かっている現場は兄弟子たちに任せ、親方と二人で調査に行く事になった。

村は十数件の家が有り、村の真ん中を細い道が通り両側に家が少し距離を開けて建っている。

家は古いが重厚感が有り歴史を感じる建物ばかりだ、家の裏は山の斜面で木々が鬱蒼と立ち並び時代劇に出てきそうな雰囲気だ。

 

調査は奥の家からと親方の指示があり奥の家へと車を走らせた、その家は立派な家でこの村では一番大きな家だ。

後で聞いた話だが、この村が出来た当時はこの家が親方様で手前の家々が家来衆だったそうだ、これを聞いてこの村は落人の村ではないかと思った。

 

家に着くと調査票を持って親方の後に付いて挨拶に行った、「ごめんください」と声をかけると奥様らしき人が出てこられ「すみません、ご苦労様です」と庭を一望できる縁側に案内された。

話は聞いていた様で打ち合わせもすぐに済み調査を始めた、一本一本名前と大体の大きさと見積り価格を親方が査定していくのを書き留めていく、中々退屈な仕事だ。

 

そのうち昼になったので縁側で弁当を食べながら建物の中を覗いてみると、広い部屋の床の間の様な所に「鎧兜」が三領、その上の壁に「槍」が三条それに「刀」が三振り飾ってある、やはり落人の村だろう。

そこへ奥さんが来られたので興味津々な俺は近くで見たいと思い了承を得その部屋に上がり鎧兜を見ていると、横の部屋との襖の影に子供が居るのに気が付いた。

 

その子は小学高学年くらいの丸顔でふっくらしているが体は少し痩せている 「こんにちは!」と声を掛けると襖の影に隠れてしまった、覗くと勢いよく走って奥へ行ってしまった。

  奥 「すみません 恥ずかしがりやなもので」

  俺 「いえいえ 何年生ですか?」

  奥 「一応五年生なんです」

  俺 「そうですか 元気そうな子ですね」

  奥 「すみません すこし遅れていて・・・」

ん?何の事だろうと思ったが、親方から仕事を始めると言われ地下足袋を履き直した。

その日は夕方五時まで調査を行ったていたが、その間子供さんの姿がチラチラ見え隠れしていた。

 

あくる日も朝から始め昼休みになると、子供さんがこちらをじっと見ているので「こっちへおいで」と声を掛けると恥ずかしそうに寄って来た。

  俺 「こんにちは 名前は?」

  孝 「孝蔵」聞き取りにくい籠った声でした

  俺 「孝蔵か」

頭を上下に少し強めに振った彼をみて、奥さんの「少し遅れていて・・・」の言葉が理解できた

  孝 「あそぼ」

  俺 「あぁ 遊ぶか」と言い俺の膝の上に座らせると

孝蔵は膝の上で何かをいいながら体を前後に動かしている、その仕草が可愛かった。

そのうち俺も孝蔵の言葉が聞き取れるようになって来た、その時

  考 「あんちゃん」

  俺 「ん 俺の事か?」

  考 「うん」と言い頭を上下に振った

それを手で止め「おう あんちゃんだぞ~」と言い少し強く抱きしめると、嬉しそうな顔をし笑っている。

 

この家の調査は今日で終りそうで、明日から順番に調査する予定です。