えっ! 僕が?
僕は小学校二年の時母親を病気で亡くし、四年の時事故で父親を亡くした。
その後兄弟ばらばらで其々別の施設に預けられた
僕の預けられた施設は街はずれの小高い所に有り、建物の裏は平地で手摺がありその奥が谷になっていて川が流れている
川の向こうは木々に覆われていて鬱蒼としている。
その平地の一角に古い壊れかけの机と椅子が置かれていた。
施設から学校に通っていたのだが、両親がいないせいか担任の先生に嫌われていたのか、今で言う「いじめ」のような事が度々あった。
ある日、算数の時間なのにいきなり「親のいない者 手をあげろ!」って言われ、なんで今?算数の時間に?と思ったが
周囲の子たちが自分を見てくるので仕方なく手を上げると「親がいなくてお前が生まれる訳がない!」と怒鳴られた、小学四年生の僕には理解出来ない言葉だった
またある日、同級生のランドセルが刃物で傷をつけられた、先生の犯人探しが始まり綺麗ごとを言いながら生徒の間を歩いていた
すると自分の横に来て立ち止まり「正直に言えば許してやる!」と自分の頭に手を置き押さえつけた、自分を犯人と決めつけた行動だった、もちろん自分はやってはいない
他にも大なり小なりの事が有った、その時から自分の考えや性格が変わったように思う。
でも逃げ出せば生きて行けない状況なので、歯を食いしばり何とか自分を維持して我慢する日々を過ごした
中学に入るとすぐ新聞配達のアルバイトを始め、そして初めてのお給料を貰った。
嬉しくて貰ったその足で、施設の仲間にとお菓子を一杯買い込み、仲間の喜ぶ顔を思い浮かべながらの帰り道、車の事故に遭った
その時は凄く冷静で「自分は何のために生まれて来たんだろう・・・」と考えていた、その後気が付いた時は病院のベッドの上だった
ベッドの横には園長先生が泣いている・・・心配してくれていたんだ・・・
その後、車いすの生活になり、一段と性格が内に向き一人の時間が多くなり人と接する事を避けるようになった。
施設の裏で本を読んだりぼ~と考え事をしたりの毎日でしたが、鬱蒼とした木々、川のせせらぎの音、古い壊れかけの机や椅子・・・なぜかこの場所が好きでした。
ところが、この場所は最近、幽霊が出ると施設の仲間や先生が噂している・・・
ある日、裏で本を読んでいると「こんにちは!」と声を掛けられた、振り向くと若い女性が微笑んでいた
背が低くて華奢で色の白い女性だ
僕 「はぁ・・・」
節 「こんにちは、今日からこの施設にお手伝いにきた○○節子です宜しくね!」
僕 「はぁ はい」
その時、暖かく懐かしいような感じがした、たしか母の名前も節子だったように思う
節 「今いくつなの?」
僕 「十三歳です 先生は?」
節 「十九歳よ いつもここで本を読んでいるの?」
僕 「はい・・・」
節 「また後でね」
このワクワクした感情は、人を避けている今の僕には久しぶりの感情だった
それから数日が過ぎいつもの様に裏の陽だまりに居ると
節 「今日もここにいるんだ」
僕 「あっ はい」
節 「ここって幽霊が出るんだって?」
僕 「あぁ そんな噂が有るようですね」
節 「怖くないの?」
僕 「大丈夫ですよ 先生は?」
節 「・・・私も大丈夫・・・」
何か口ごもっているので、やっぱり怖いのかな?
僕 「先生が幽霊だったりして~」
節 「そうかもね・・・冗談よ!」
節子先生と話していると心地よい気分になれ嫌な事を忘れさせてくれる、また僕自身変わる事が出来るかなぁ・・・
今日はどんより雲が空を覆っているが裏へ出て谷を流れる川を見ていた
節 「またここに居るの?毎日のようね」
僕 「あっ はいここが好きなんです」
節 「あのね お話があるの・・・」
僕 「なんですか?」
節 「あの・・・施設の名簿にね 無いのよね・・・」
僕 「何が無いのですか?」
節 「貴方の名前が・・・」
僕 「え~何かの間違いで抜けているのでは?」
節 「うん そう思って園長先生に聞いてみたの」
僕 「そうなんですか っでなんて?」
節 「園長先生 名簿に彼の名前が載って無いのですが」
園 「そうね それは・・・
ところで貴女、裏へよく行っているけど何か有
るの?」
節 「いえ別に彼と話しているだけですよ」
園 「えっ 彼って誰? えっ もしかして・・・
貴女見えるの?」
節 「見えるって何をですか?」
園 「・・・彼はあの事故の時 亡くなっているの
よ・・・」
えっ! 僕が? ゆ・う・れ・い・・・・・