tomshannon’s diary

69歳の爺です、ストレス解消に素直に記したいと・・・

「ランプの館」

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1980年代半ば凄く暑い夏があった

夏が終わったある日、気晴らしに一人旅に出かけた。

行先も決めず電車に飛び乗った、今まで北へよく行っていたので南へ向かう事にした。

 

電車に揺られ三時間余りで田園風景が広がり海も見え始めた、寂れた駅が続くようになった所で適当に降りてみた。

駅に降りると駅員さんが一人の古い駅舎だ。

駅の片隅にチラシの様なパンフレットが有ったので、それを見ていると裏表紙の「ランプの館」と言う文字が目に留まった。

興味を持った俺はそのパンフレットを持ち駅員さんに

  俺 「済みません」

  駅員 「はい? 珍しいのこの駅に人が降りてくるなんて」

  俺 「そうなんですか ちょっとお尋ねしたいんですが」

  駅員 「なんね?」

  俺 「この宿なんですが ご存じでしょうか?」

  駅員 「どれどれ 「らんぷの館」か・・・知らねえな」

  俺 「この住所はこの辺りですか?」

  駅員 「んっと あぁ 二駅向こうかな 向かいの家で聞いてみれば何か知っているかもしれんなぁ」

そう言うと聞きに行ってくれた

 「たしかにそんな建物が有った様に思う」との事だったので行ってみる事にしたが、次の電車が来るまで一時間はあるがどうしようもなく駅のベンチで寝そべって待つことにした。

「ランプの館」って洋館で味のある建物かな、各部屋にランプが有るのかな?等と思いを馳せらせていると、電車がやって来た。

 

二駅目で降りると、先ほどの駅よりまだ寂れていて無人駅だった、これは失敗かなと思い電車の時刻表をチェックしておいた。

パンフレットに乗っている地図を見ながら歩いていると遠くの方に人影があるので半ば走るように近づいて聞いてみた。

「この道を上がって行くと脇道が有るのでそこを入るとええ、でも三十分近く掛かるぞ、それに営業なんてしていないと思うけんど」との事だ。

やはり失敗だった様に思ったが、行くだけ行ってみようと速足で館に向かった、山道に入り峠の様な所に出るといきなり視界が広がり木々の向こうに太平洋が見えている。

 

木々の間の山道を行くと脇道があり足元に「ランプの館」と書かれた小さな立て札が有り、木々でうす暗い中その立て札だけがくっきりと見えた。

 

脇道に入って行くと広場が有るが、建物も無く行き止まりになっていた。奥に自動車が停まっているので近づいてみるとその後ろに階段が有った。

おそるおそる階段を下りてみると,、そこには目を疑うような小さいながらもヨーロッパ風の庭と趣のある古城が建っている。

 

ワクワクしながら近づくと、建物の真ん中に大きな木の扉が有り左右に窓が並んでいる。

扉の前へ行くがインターホンも見当たらず、扉を開けるにも開かないので大きな声で「すみません」と怒鳴ってみた。

すると「はいはい」と声が聞こえたので振り向いてみると、いわゆる執事という服装の年配の男性が立っていた「えっ どこから現れた?」と思ったが

  俺 「すみません このパンフレットを見て来たんですが」

  執事 「さようで・・・」

  俺 「泊まることは出来るのですか?」

  執事 「はい では此方へどうぞ・・・」

何か陰気だなと思っていると、開かなかった扉をいとも簡単に開けて「どうぞ・・・」と言ったので執事の後に付いて中に入った。

 

そこは正面に暖炉があり、その上には大きな絵画が飾ってある「期待通りだな」とワクワクしていると「こちらへどうぞ」と隣の部屋に案内された。

この部屋には古いヨーロッパ調のテーブルと椅子が中央に有りテーブルの上にはランプが置かれている、別世界へ来たようだと思いながら腰かけていると

奥からご主人と思われる五十絡みの女性と老婆が入って来た

  主 「いらっしゃいませ」

  俺 「あっ どうも」

なにが「どうも」か解らなかったが今迄に会った事の無い雰囲気の女性で戸惑ってしまった

  俺 「あのぉ ここは宿泊施設なんですよね」

  主 「はい 一応は」

  俺 「一応って事は・・・」言葉に困った

  主 「はい 中々問い合わせがあっても此処までたどり着けない人が多いようで・・・」

  俺 「でも俺は迷わないで来れましたよ」

  主 「そうですね あの立て札が見えたのですね 珍しい事です・・・」

何が珍しいのだろうと思い

  俺 「と言う事は 今日は お客さんは俺一人ですか?」

  主 「はい・・・」

でも主人の女性も老婆も笑顔で嬉しそうな顔をしている

 

その後の食事や風呂などの事を老婆に聞いて部屋まで案内された。

部屋は二階で窓からは先程のヨーロッパ風の庭が見えその向こうには太平洋が見える、窓際にアンティークなベッドとサイドテーブルが有り、テーブルの上にランプが備え付けてある。

 

廊下も風呂も何もかもが古城というイメージだ、失敗と思いつつ来たものが正解だとワクワク感が収まらない。

 

風呂に入り部屋で少し落ち着いて暗くなりかけた海をのんびり眺めていると、執事がランプに火を入れに来て「食事は30分後位になります」と言い部屋を出て行った。

俺はベッドに横になりうつうつしながらランプを眺めていると「きゃっ きゃっ」と笑い声の様なものが聞こえた、周りを見回しても誰もいない。

何だろうと思いつつランプを見ると炎の上あたりに顔がぼんやり浮かんでいる、その顔は可愛い女の子で「きゃっ きゃっ」と笑っている

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うわっ!っと目を擦ってみたがやはり見える、なんだなんだ!

周囲に目をそらしまたランプをみるとその顔は消えていた、気のせいだろうかと思っている所へ執事が食事の用意が出来たと言いに来た。

 

案内された部屋には5m位の白い布の掛けられたテーブルがあり、両側に椅子が十脚があった。テーブルの上にはランプが数個並んでいて、壁は石造りでそこにもランプが等間隔に並んでいる。

椅子に座ると料理が三人分セットされている、あれ?と思っていると主人の女性と老婆が入って来た。

  主 「ご一緒させて頂いても宜しいでしょうか?

  俺 「あ はい」

  主 「久しぶりですのよ 大勢でいただくのは」

大勢って三人じゃん・・・と思いながら食事を始めたが「きゃっ きゃっ」と笑い声が聞こえた

  主 「今日は燁子(あきこ)も一緒の様ですし・・・」

  俺 「えっ 燁子さん?」

  主 「はい すごく喜んでいるようですゎ」

  俺 「何の事ですか?」

  主 「いえ 良いのですよ・・・」

良いのですよって・・・

  俺 「燁子さんて誰なんですか?」

  主 「・・・はい 亡くなった娘ですのよ・・・」

 

食事も終わり色々話を聞かせてくれた

老婆と女性は親子で旦那さんはスペイン人で貿易商を営んでいて、よく海外へ出かけていたそうだ。娘を国の両親に会わせるた為二人で帰国したそうで、1980年スペイン領のカナリア島で飛行機事故に遭い二人は亡くなったそうだ。

  主 「でも 燁子は今でもこの家に住んでいる様ですのよ」

  俺 「はぁ・・・ さっき部屋で笑い声と顔を見ましたが 娘さんでしょうか?」

  主 「そうと思います・・・喜んでいるのでしょう貴男に会えて」

  俺 「自分に会えてですか?」

すると老婆が部屋から出て行き、アルバムの様なものを持って戻って来た

  老婆 「これを見てください」

そこには、庭で撮った写真が貼られていた

  俺 「へっ えっ・・・」

  主 「そうなんです よく似ていらっしゃるので燁子も喜んでいるようです」

その写真は俺によく似た旦那さんと娘さんが写っていた・・・

部屋は窓も閉めて有り空気が流れていないのにランプの炎がゆらゆらと揺れて「きゃっ きゃっ」と笑い声も聞こえる・・・

 

訳の解らない不思議な気持ちで寝室に戻った

   ランプが揺れている・・・笑顔が見える・・・笑い声が聞こえる・・・

どうして良いか解らないまま半ば放心状態で娘さんの顔を見ていると、何かを言っている様に思えたが言葉が聞こえなかった。

ベッドに横たわっているのだが寝付けず娘さんと見つめ合って会話をしている様だった。

 

そのまま朝になり、朝食を頂き支払いを済ませ帰ろうとすると「これを貰ってください」とお土産用のランプを手渡された。

 

帰りの電車では寝ていないせいか、不思議な事を体験したせいか半分放心状態だった。

何だったのだろう?

旦那さんの霊はどこに?

考えても俺には解るはずがないよな・・・

 

家に帰りその日は爆睡した。

あくる日ローソクを買い、その夜 火を入れてみた、燁子ちゃんは来るのかな?と思ったが何の変化も無かった。

でも炎の明かりが気にいり時々火を入れているとある日「きゃっ きゃっ」と声が聞こえた、炎の方を見ると燁子ちゃんが笑っている。

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   遊びに来てくれたんだ・・・

 

      今でも彼女に会いたい時には火を燈している・・・

 

画像はその時のランプです、今もPCの横に置いてあります。

ちなみに、横の黒電話は今も現役ですw