「喝采」
「喝采」
俺は田舎から去年の春に都会へ大学に通うために出て来た、でも大学は二流だし都会の端っこなんだ。
大学に通い始めて3年目の春にやっと一人の女性と知り合った。
彼女は「真理子」と言って田舎から出て来ていてスタイルの良い美人なんだ、そのうえ歌が上手くて聞き惚れるんだよね。
二人とも一人暮らしでアルバイトをしていた、俺はコンビニで、彼女は歌が上手いのを活かしてピアノが有るレストランバーで歌っている。
二人のアルバイトで中々時間が合わなくてデートはもっぱら学校帰りに喫茶店で話をする程度だった。
そんなある日土曜日だったんだけど、真理子から携帯に連絡が来た
真 「もしもし」
俺 「はい どうしたの?」
真 「明日時間ある?」
俺 「バイトまでの時間なら」
その日は深夜のシフトだった
真 「夕食一緒にしない?」
俺 「あー良いよ!」
彼女から食事の誘いなんて初めてかも知れない
真 「ちょっと相談があるんだ」
俺 「どうしたの 何かあった?」
真 「うん 会って話す・・・」
俺 「じゃあ 駅前のレストラン七時でどう?」
真 「うん 待ってる・・・」
あくる日レストランへ行くと沈んだ感じで真理子が待って居た
俺 「よう!」
真 「ごめんね・・・」
俺 「どうしたんだよ?」
真 「うん 先に何か注文しよう」
俺 「そうだな 俺とんかつにするよ」
真 「私も一緒でいい・・・」
しばらくすると料理が来た
俺 「食べながらで良いので早く言えよ」
真 「ごめん これ見て」
と言いながらバッグからハガキを取り出した、そのハガキは宛名も無く裏に
黒い縁取りで「まだだよ、もう少し」て書いて有るだけだった
俺 「なんだよこの葉書・・・」
真 「うん 解らない・・・」
俺 「これ一枚か?」
真 「ううん これで四枚目」
俺 「いつから?」
真 「八月の第一土曜日・・・」
昨日は第一土曜日だ、その後彼女から聞いた話では、毎月第一土曜バイトが終わりマンションに帰るとポストに色々なチラシと一緒にこれが入っていて、隣の住人に聞いてみたが隣には入ってないそうだ。
真 「気持ち悪くて・・・警察に言っても取り合ってくれそうにないし」
俺 「そうだな 実害が無いと相手にされないらしいからな」
真 「うん・・・」
俺 「っで最近変わった事ないの? 誰かに付けられるとかさ」
真 「うん 特に・・・でもマンションの窓の外で何か気配を感じた事が有る」
俺 「気配って真理子の部屋2階だろ」
真 「うん・・・」
俺 「それって何度も?」
真 「うん2・3回・・・」
俺 「他に気になることは無いの?」
真 「うん 一つ気になっているのは、バイトで土曜の夜の最後に歌う歌が決っ ていて・・・知っているかなぁ ちあきなおみ の喝采って曲」
俺 「知らない」
真 「その歌詞にね・・・黒い縁取り・・・て歌詞の部分が有るんだ・・・」
俺 「なんでその歌なの?」
真 「オーナーが好きなんだって、なんか意味でも有るのか聞いたんだけど別に何もないって・・・」
時間も無くなり答えも出ないままその日は分かれた
それから数日、何事もなく過ぎて行った
俺は真理子の事が気になるので、時間の有る時は出来るだけ送り迎えをしたり一緒に居るようにした。
何日か過ぎたころ何気にスマホで「第一土曜日 ニュース」を検索してみると、8月第一土曜に隣町で火災が有り住人が一人が亡くなっている。
9月第一土曜日ひき逃げ事件が有りこれも一人亡くなっている様だ、10月第一土曜も火災、真理子が相談して来た11月第一土曜も火災・・・
偶然だろうか・・・真理子にこの事を話していいのか迷ったが、話せば一段と不安になるだろうと思い話さずにいた。
今日は12月の第一土曜だ、俺はアルバイトを休み真理子の店へ行く事にした。
こじんまりとした落ち着いた店で小さなステージにグランドピアノがあり、その前に丸テーブルが配置され壁際にはカウターが設けられている。
俺はオーナーに了解を得てカウンターの端っこで真理子の出番をカクテルを飲みながら待っていた、最初はピアノ演奏で次が真理子の歌だった。
真理子は黒のドレスでいつもの彼女と違い怪しい魅力を醸し出していた。
休憩を挟み数曲、真理子の歌を聞いているとステージの後ろに黒いものがすーと通ったように感じたが、飲みつけないカクテルのせいだろうと気にしなかった。
いよいよ例の歌が始まった🎶「いつもの様に 幕が開き~」🎵
暗い歌だ「黒い縁取りがありました~」♫ 確かに有る・・・
歌も終り真理子がカウンターに来て
真 「どうだった?今日はいつもより気合を入れて歌ったのよ」
俺 「あぁ 惚れ直したよ」
真 「もう! 私も何か飲もうかな」
俺 「あぁ 飲もうよ」
その後何気ない話をしながら閉店時間まで飲んでいた。
閉店と同時に店を出るとクリスマスのイルミネーションでキラキラしているなか、電車に乗り彼女のマンションの最寄りの駅へ
駅を出ると自然が残る静かな町だが、いつもと違う騒めいた空気が流れていた。
マンションへ向かいながら真理子が「また 葉書入っているのかな・・・」と不安げに言ってきたが、その言葉を打ち消すように救急車がサイレンを鳴らしながら横を走り抜けていった。
何だろう・・・俺も不安になりながら角を曲がると目に入って来たのは彼女のマンションの前に救急車に消防自動車が数台、それに野次馬がいて騒然としている
良く見ると真理子の部屋から黒い煙が出ていて、時折火柱が見えた。
真理子はその場にしゃがみ込み「こういう事か・・・何で・・・」と呟いた。
その後、真理子はショックで田舎の実家へ帰ってしまった。
俺は空気の流れが止まったようなボロアパートで一人取り残されていた、何だったんだろう・・・
なぜ真理子が狙われたんだろう・・・
なぜ予告して来たんだろう・・・
あの黒い気配は何だったのだろう・・・
あの歌との関係は・・・
解らない事ばかりだ、一つ解っている事は帰宅時間がいつもより1時間ほど遅かったのが、真理子が命を落とさずに済んだと言う事・・・
彼女はまた狙われるのか・・・