若狭の雛人形と久左衛門
江戸時代に、京の都に久左衛門という人形師がいました。
久左衛門の作る人形は、透明感がありそれは美しいもので都では知らない人がいないくらいでした。
久左衛門が いつも通り世間が寝静まった頃人形を作っていると
木戸を叩く音が・・・コン コン・・・
久 「誰だね こんな遅くに」
「すみません お願いがあってまいりました」
久左衛門が木戸を開けると、網笠を深くかぶったみすぼらしい男と女が立っていました。
久 「もう丑三つ時じゃぞ お願いなら明るい内にすれば良いじゃろ」
「すみません 明るい内は外を歩けません」
久 「うん? お前らはモノノ怪か? まあよい 入りなさい」」
二人は中に入り網笠を脱ぐと
久 「ふぇ モノノ怪ではないか!」
二人は髪の毛が半分ほど抜け 顔というと目鼻の形はあれど色が無い 肌は真っ白だがひび割れしていた。
久 「なんだ お前らは」
「はい私たちは二百年ほど前に作られた雛人形でございます」
久 「二百年・・・なにか事情がありそうだな 話してごらん」
「はい 私たちは二百年前、今のお店に上がったのです。その時は
お嬢様の雛祭りの為、私たちをお呼びになり、毎年飾って頂いて
いたのですが その後殿子ばかり生まれ女の子が生まれなかった
のです。
その為私たちは何十年と蔵の隅っこに仕舞われていました。
ところが 先日今の奥様に女の子が生まれたのです、それで
御主人が私たちを見に来られ、見るなり
「これは処分して、新しいものと買い換えなければ」と・・・
私達は処分されるようです、そこで私たちを元通りに修復して頂
きたいと京で有名な久左衛門様にお願いに上がった次第です。」
久 「そうか・・・ っで何処から来たのじゃ」
「若狭の国です」
久 「わかった 望み通り元のようにしてあげよう」
「有り難うございます」
それから久左衛門は三か月を掛け修復しました。
「有り難うございます 生き返りました これから若狭へ帰り飾っ
てもらえるようにお願いするつもりです」
久 「そうか 飾ってもらえると良いのぉ」
それから、数日が経ったある日・コン コン・と木戸を叩く音がしました
久左衛門が戸を開けると あの二人が立っていました
久 「どうしたんじゃ?」
「はい あれから帰ったのですが・・・もう新しいお雛様が来られ
ていて蔵の隅から出して貰えなかったのです。」
久 「そうか・・・せっかく生き返ったのにのぉ ではここに居るが良い」
そう言って 二人を床の間に据えておきました
しばらくすると お武家さんが来られ
「拙者 若狭藩の家老で丹波の守と申す」
久 「はい いらっしゃいませ」
丹 「じつは この度 わが奥方様に姫が生まれたので雛人形を作って
欲しいのだが」
久 「おめでとう御座います ではあの雛人形は如何でしょう?」
丹 「どれどれ おぉ これは素晴らしいものじゃ」
久 「はい 二百年前の室町時代に作られたものを修復した、
私の自信作でございます」
丹 「二百年も前・・・ モノノ怪が付いている様な事はあるまいな」
久 「大丈夫です もし付いていたとしても災いを起こす事は無く、
幸いをもたらしてくれるでしょう」
丹 「ならば どうじゃろう一緒に若狭まで行ってもらえぬか」
久 「私が で ございますか」
丹 「そうじゃ 一緒に行って殿に この人形をお見せするのじゃ」
久左衛門はお城に上がりお殿様にお目通りした。
殿 「久左衛門とやら 大儀であった」
久 「ははぁ これが雛人形でございます」
殿 「おぉこれは 素晴らしいものじゃ!気に入ったぞ」
久 「ははぁ 有り難き幸せ」
殿 「ところで久左衛門、そちを我が藩のお抱え人形師として召し抱えたい
のじゃが」
久 「私を で ございますか」
殿 「そうじゃ貧乏藩ゆえたいしたことは出来ないが、そちの人形を特産品
としたいのじゃ」
久左衛門はしばらく考えていましたが、弟子もおらず嫁もいない一人身なのでお殿様の申し出を受けたのでした。
その後久左衛門は、弟子を取り人形造りの技術を伝え人形を特産品として確立させ、藩も栄えたそうです。
弟子たちも代々技術を継承し、人形も「若狭人形」として現在にも受け継がれているようです。
あの雛人形は、その時のお姫様が嫁いだ後も姫子がいなくても、久左衛門の功績を称え明治時代の廃藩置県まで長きに渡り 三月三日には飾られていたそうです。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
これは爺の妄想です、若狭藩も若狭人形という日本人形も存在しませんw