古い黒電話機
もう12月!年末の大掃除を68歳の爺には精神的にも体力的にも一度に出来ないので少しづつ毎日やっていこうと思い、今日は納戸を全部放り出して掃除を始めたところ古い黒の電話機が目についた、その時こんな話を思い出した。
どこで読んだかいつ読んだか覚えていないのだが、思い出しながらまとめてみましたw
🎶日本ちょっと昔話🎶
☎ 「古い黒電話機」
昭和30年代前半 大阪は海沿いの小さな町
近くには造船所や工場が多くあり、小さいながらそこそこの人口が住んで居る下町だ
学校や病院などが充実していて小さい町には似合わない長さの商店街もある
僕の家はその商店街の端っこでお爺さんの代から履物屋をしていて、一階が店舗でその裏に倉庫があり二階が住まいになっている
家族でやっているので店には親父も爺さんもおっかぁもいつも居るんだ
僕は小学3年生で、色々なものに興味が有りいつも親父や爺さんに「これ何?」「これはどうなってんの?」など聞いていた
ある日学校から帰ってきて友達と遊んでいる時に倉庫に入り色々物色していると友達が「これ何?」って黒いものを手でポンポンと叩いたんだ
見てみるとそれは古い電話機だった、受話器を取って耳に当てて「もしもし」って言っておどけて「電話機だよ」って教えてあげたんだ
その日の夕食の時、お爺さんに電話機の話をしたんだ
僕 「倉庫に電話機が有ったよ、友達に電話機だよって教えてあげたんだ」 ちょっと自慢げに言った
爺 「あ~あれな・・・」
僕 「壊れているの?」
爺 「あ~壊れていないよ、まだ使えるんだよ」
僕 「なんで使わないの?」
爺 「欲しいと言う人がいるんで差し上げるんだよ、もう少ししたら取に来られるよ。だから触らないようにしなさい」
って言われたんだ、でも何か気になっていたんだよね、使えるのに何で上げるのだろうと。
数日後、また友達と遊んでいて倉庫に入ると友達があの電話機の受話器を取り「もしもし」って喋って遊んでいたんだよね
それが本当に会話をしている様なんだ、不思議に思って「誰と話しているの?」って聞いたら「解んない」と言うので受話器を取り耳に当ててみた
でも何も聞こえないんだ「あ~だましたなぁ~」二人で笑い合ってふざけていた。
次の日学校で友達が「昨日あの電話で喋ったよ」と言ったんだ、信じられなくて「もう騙されないよ~」って言ったんだけど何か気になったんだよね。
それで学校から帰るとすぐ倉庫に行き、受話器を取り耳に当ててみたけれど何も聞こえないので「もしもし」て言ってみた、でも返事は無い 当たり前だよね
倉庫を出ようとしたら爺さんがいて「触るなと言ったろ・・・」といつも優しい爺さんに少しきつい口調で言われたんだ、怒られる事があまり無かったので少し悲しくなった。
でも気になっていたので次の日もそっと倉庫に忍び込んで 「もしもし、昨日ね爺さんに怒られちゃった何でだろうねこの電話機何かあるの?」って独り言を言うと
「フフフッ」って聞こえた・・・びっくりしたんだけど、気のせいだろうとその日は気にせず友達の家に遊びに行った。
やはり気になるあの電話機・・・次の日もそっと倉庫に入り 「もしもし、今日ね学校でこんな事が有ったんだ・・・」って色々話しているといきなり
「そうなんだ」って聞こえた!びっくりして受話器を耳からはなし受話器を見ていると 「もしもし」って聞こえた「えっ」ってなったけどその声を聞いてみた
「君は元気なんだね、君の話を聞いていると楽しいよ」 柔らかい穏やかな男性の声
僕 「えっ、誰?」
「あ~誰だろうね・・・」
僕 「どこに居てるの?」
「遠いところかなぁ」
僕 「遠いって何県?」
「もっと遠いかなぁ」
僕 「じゃぁ外国だ!」
「もっと遠いかもしれないよ・・・」
僕 「おじさん何歳?」
「解らない長く生きてるよ、これからもずっと生きてると思うよ」
僕 「ふ~ん、仕事は何してるん?」
「そうだなぁ、昔は人を幸せにする仕事だったよ・・・」
人を幸せにする仕事ってなんだろう?
「今はその反対だよ・・・」
反対って・・・人を不幸にする仕事・・・?
僕 「反対って人を泣かすの・・・?」
「うぅ~ん・・・でも次で終わる・・・・また元の仕事に戻る・・・」
何かはっきりしない答えだなぁって思っていました。
それから毎日の様に倉庫に忍び込んでおじさんと学校や友達の話などをしていた。
何日か過ぎ夕飯の時、爺さんが 「あの電話機こんどの日曜日に取りに来るよ」と教えてくれたので 「どんな人?」って聞いたら答えてくれなかったんっだ
それで親父の顔を見ると何か笑っている、おっかぁの方を見て「どんな人」ってまた聞いたら、小さな声で 「お爺さんの嫌いな人・・・」って・・・
台所で夕食の片づけをしているおっかぁの横に行って「ねえ、爺さんの嫌いな人ってどんな人?」って聞いてみたんだ
するとおっかぁは少し微笑みながら小さな声で教えてくれた
古都の呉服屋さんで、着物に合う履物を注文してくれるお得意さん、家の爺さんより年上でいつも値切るし偉そうにしているし爺さんも父さんも嫌がっている人
前に来た時、あのダイヤル式の「古い黒い電話機」がオブジェとしても良いし、呉服屋さんのお店の雰囲気に合うので譲って欲しいと言われたそうだ。
それで家が新しい電話機と入れ替えるまで待っていただいていたそうだ。
次の日また倉庫に忍んでおじさんとお話をした
僕 「こんどの日曜日この電話機引き取りにくるんだって」
「そうなんだ、っで今度の持ち主はどんな人?」
僕 「古都の呉服屋さんだって」
「そうか・・・お年寄り?」
僕 「うちの爺さんより年上だって」
「お金持ちかなぁ?」
僕 「そうだと思うよ、呉服屋ですごくけちだっておっかぁが言ってたよ」
「そうか、それなら仕事が片付くなぁ」
僕 「なんの仕事だよ!」
「ははは、また元の仕事に戻れるよ」
また はっきりしない答えが返って来た。
その日の夜自分の部屋でゲームをしていると爺さんが入って来た
爺 「お前あの電話のあいつに気に入られたみたいだな、ありがとうな・・・」
僕 「んっ なんの事?」
爺 「毎日話していただろ・・・」
僕 「知っていたの?」
爺さんは笑っていたので知っていたんだ
僕 「っで、なんでありがとう・・・なの?何もしてないよ」
爺 「いや、いいんだお前が毎日あの電話で話をしてくれたんで・・・日がずれたようだし・・・」
僕 「触るなって言われていたのに、ゴメン・・・」
爺 「いや、いいんだこれであいつも居なくなるんでな・・・助かった・・・」
なんのことか解らなかったが爺さんに「ありがとう」って言われたことが凄く嬉しかった
爺さんも親父も電話機の中のおじさんのことを知っていたんだなぁ・・・
日曜日、朝からお店にあの電話機が置いてあった、受話器を取り
僕 「おじさん元気でね、仕事変わったらまたうちに来てよね!」
「ああ、君も元気にしてろよ、仕事が変わったらまた来るよ!」
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